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その頃、ルッカは青ざめていた。転送テストは全世界に同時生中継されていて各国政府や国連も強い感心を抱いていた。今世紀最大の発明の披露と共に最大のトラブル。会場にどう言い訳しようか悩んだ挙げ句叫んだ。 

『失敗は成功の元なのよ!サイエンスに失敗はつきものなのよ!』

いわゆる開き直り。クロノとマールの死体は見つかってない。殺人罪は適応されない
怯えなくていい。そう自分に言い聞かせて平静を保つ。

空間の揺らぎは小さくだが未だ残っている。
ルッカは二人が消えた瞬間を冷静に思い出していた。まるで映画の様なワンシーン。もしゲートがどこかの世界に通じているなら大発見である。事故の際にペンダントが反応した事を思い出したルッカ

ペンダントの石の成分、波長に原因があるのではと推理した。転送装置は、あらゆる金属を試していて危険は無い事が判明していたが、未知の金属に関しては例外であり検証できなかった。再現実験するにはペンダントが必要であったが手元にはない。

波動観測装置をチェックするルッカ
特殊な電磁波、波動が機器を狂わせたりして事故に繋がる恐れがあるとき、類似した波動を発生させて共振させ悪影響を打ち消す為の装置。マールのペンダントが異常反応した際も波動は記録されていて、その波動と同じ波係を出せる様に装置にプログラムすればゲートの再現実験をできる可能性があった。


検証は転送装置の電力量を限りなく0にするところから始まった。装置がショートとしかけた事もあって、慎重に稼働させる。

一回目の実験にて、電力量が少しでもあれば同様のゲートを再現できる事が判明する。つまり携帯可能な小型の転送装置でもゲートの再現は可能になり、仮に向こう側の世界に電力設備がなかったとしてもバッテリーさえあれば戻ってくる事が可能であった。転送装置の小型の模擬機(サンプル)を作っておいたのが役立ち、1時間程で即席のゲートホルダーが完成した。

ゲートにドローンを入れる。目の前にクロノの死体がないので安堵する。温度計や酸素チェッカー、放射能測定器も使い、向こう側の安全を確認する。

安全そうなので、いざ入ってみることに。

心臓はドキドキ。

一部始終はテレビで全世界に報道されている。ポーカーフェイスを保つ。

カメラ写りを気にして髪をかき上げたり、カメラ目線のままゲートに入る。
つまり後ろ向きでゲートに入ったせいで、お尻にかぶり付きそうな青いエイリアンがいる事に気付かなかった。
ふりかえるとエイリアンと目が合い、絶叫するルッカ。 その声のデカさに青い奴らも絶叫した。驚いたエイリアンは茂みに隠れた。

すぐさま千年祭会場に戻ってゲートを閉じたルッカ。ゲート先で見た状況をマスコミに伝えるべきか悩んだ。

もしクロノとマールがエイリアンに殺されているとしたら責任問題になる。
悲しむ親たちと業務上過失致死からの警察出動、逮捕⇒牢屋⇒裁判⇒刑務所の流れが見えてしまい、これまでの輝かしい人生が走馬灯する。

今の状況で真実を公言する勇気はルッカにはなかった。


ゲートの先には危険な生物がいる。武器になるものはないか探すルッカ。護身用の電気銃を携帯していたが弾数が10発しかなく心もとない。予備のマガジンが車の中にあり、合計50発を用意する。
念の為、クロノを捜すのに必要になるだろう無線電波増幅装置を会場のブースで購入し、リュックに入れる。

  リュックにはゲートホルダーが壊れた際の修理に必要な工具類が一式入っている。半だごて、ニッパー等、多様なものが入って20kgを背負う。ついでに、あったほうが便利かもしれない双眼鏡を会場にいたルッカファンの一人から借りる。

クロノがゲートに入って1時間が経過していた。この間、マスコミや野次馬らは天才ルッカを信じて挙動不審なルッカの行動も温かく見守っていた。

 

エイリアンに警戒しながらゲートに入る。エイリアンはルッカの様子を伺いながながら距離をとりながら着いてくる。

滝の音。ルッカには見覚えのある風景だった。トルース山の滝に似ている。もしトルース山だとしたらガルディア城もそこから見えるはずだった。

城下の景色には道路と車がない。 このガルディアはレンガ調の道で車の代わりに馬や馬車が主役である。双眼鏡を覗くと、人々の姿は中世紀頃の服装をしている。

中世紀頃のガルディアであるなら、ヨーロッパ各地で起きた黒死病(ペスト)の流行の影響を受けているかもしれない。ルッカの知るガルディアの歴史でも国内はペストの影響により経済危機にみわわれ、飢餓での死者を多くだしていた。もしそうなら治安の悪さも推測される。

だが街並みをみる限り、餓死者がいる様には見えない。

ヨーロッパ人口の三割がペストで死んだとされる、もしそうなら沢山の墓があるばすであった。

ルッカの考察は【あくまでここが過去のガルディアであるならば】である。エイリアン(魔族)がいる世界であるから別世界であり、歴史は地続きではないと思っている。


ルッカはリュックから無線電波増幅装置を取り出してバッテリーに繋いだ。クロノが持っている筈だろう無線と繋がる事を期待して言葉を投げ掛ける。

無事に繋がる無線。話を聞くとクロノは街中を逃亡中だった。現代的服装は目立ち過ぎていて、民家から服を盗んで人混みに紛れていたクロノは街でマールの行方を聞き込みしようとしたが、兵士らの追っ手が聞き込みにやってきて、それどころでないらしく、逃げている間に人気の少ない高台の修道院へとだとりついたそう。

 

ルッカもクロノに合流するべく修道院へと向かおうと思ったが、ルッカも現代風の服を着ていた為、一旦会場へと戻り、祭りの劇団から中世衣裳を借りて着た。