リーネの価値 カエルと魔族の会話

「我らの主を知りたければ、まずはその剣をコチラに預けて貰おうか…」

 

剣を鞘に仕舞うカエル。剣を収めた振りをして油断させ居合での攻撃をする事も可能だったが
もしこの場所に王妃が捕らわれているのならば下手に戦えば人質にされかねない。嘘でもいいからスパイに成り済まし、一旦引き上げて戦略を立てるか応援を呼ぶのが正解かもしれないと考える。だが、それ自体が敵の罠で時間稼ぎ(リーネを別の場所に隠してしまう)かもしれない。

『王妃はここに捕らわれているのか?』

『それについても武器をこちらに渡してから教えてやろう』

人質の安全を確保してから戦うのがセオリーだとしても王族の家訓は『人質されるような事態になれば見捨てよ』だった。

だがカエルはリーネを見捨てる事はできす武器を渡した。

『ところで王妃には擬態した魔族の気配を感知する能力がある事は知っているか?』

『どうやらそうらしいな。我々もそれを危惧して誘拐したのだが…

『なぜ誘拐になったのだ?誘拐せずとも殺してしまう方が簡単だろう?  擬態してガルディアを支配するのが、目的であるならば王族ではなく、政治的な権力がある議員や役人に成り済ます方が得策だろう?』 

『それはだな…。我々も当初はそのつもりだったのだが…。 

『それがまたどうして?』

『我々の主様は用心深いのだよ。人間に擬態を識別できる超能力が本当にあるのか信用できなかったらしい。つまり主様は西側の擬態魔族がリーネに成り済ましている可能性を考えられた。ガルディア人にどの程度西側魔族入り込んでいるかを調べる為にリーネを誘拐したのだ。』

『なるほど。だがリーネは正真正銘の人間だったろう。

『そのようだな。拷問しても自白魔術を使っても白だった。恐らく正真正銘の人間なのだろう。しかし不思議なものだな。まさか人間に魔族にすら希な能力が備わっているとはな…』

『…つまりリーネは用済みなのだな?もう殺したのか?』

『いや、結局そうはならなかった。』

『というと?』

『擬態を見抜く力が想像以上に優れていたのだよ。殺すよりも利用するべきだと主様は判断された』

魔族はカエルの脅威が無くなると安心したのか、侵略の成果を誇らしげに話した。そしてペラペラとリーネの価値について喋った。人質にされても殺される心配がないのだと判断したカエルは、天井のへりに隠しておいたもう一本の剣を取った。

着地する瞬間のバネ運動の貯めと蹴った瞬間の勢いを合わせると時速200kmで動けるカエル。壁など足場にして高速で次々に魔族を攻撃し、逃げる間もなく制圧してくのが、カエルのこれまでの勝利の方程式だった。

だが、攻撃の手応えが全くない。魔族達は斬られる寸前に消失していく。
カエルには何が起こったのか理解できなかったが、周囲に目を凝らすと虫が飛んでいる事に気付く。

(まさか斬られる瞬間に虫に擬態したのか?)
カエルは困惑していた。
西側魔族に多いとされる擬態の特性でいうなら、同身長サイズの生物への変化しかできず、また変身する姿が複雑なものである程、変身には時間がかかるというものだった。
それとは全く異なる擬態能力を持った魔族については想定外であった。恐らく新魔王となったアルファドがもたらした特別な魔術を利用しているのだろうが、考察する材料が少なくカエルはお手上げだった。